私が働いていた頃の撮影現場はかなり原始的なことが多く、そこで働く者たちは結構な苦労が多かったように思います。
そんな過酷な撮影現場にも沢山の女性たちが働いていました。その時の逞しい女性たちのエピソードを思い出して書いてみました。
撮影現場には常に30〜50名の人間が働いています。その殆どがフリーランス、プロの職人達です。女性たちも所属はしてますが現場では1人です。本人の問題は誰も助けてあげられません。「自分で何とかする」のみです。
京都のお寺、日本庭園に面した和室、この日は天気もよく少し汗ばむくらいの天候でした。我々スタッフは半袖ですが汗を拭きながら準備していました。そこへ和服のモデルさんが登場です。
彼女は畳に正座です。背筋がピンとのびて凛としたたたずまいです。カメラのアングルを変えて5カット撮影の予定です。少し手の混んだ撮影だと1時間以上かかります。
テストをしたり照明の調整中も彼女はじっと動きません。かなりの暑さのはずなのに顔からは汗も出てません。彼女の頑張りのおかげですべてのカットを無事に撮り終えました。
私は「お疲れさまでした」と伝え「昨日から水分を抑えて来たの?」と聞きました。すると彼女は「いいえ、顔から汗がでるとメイクが崩れて皆さんが困るのでいつの間にか出なくなりました」ですって、驚きです!!
彼女はたくさんの修羅場を経験したのでしょう。撮影は時間が押すと次々に悪いことが起こります。なので彼女は顔の汗を止めることができます。そのかわりに背中には滝のような汗が流れてるそうです。
彼女は本物のプロですね。モデルは見た目も大事ですがこんな能力も必要です。スタッフ受けの良いモデルにはこういう人が多いです。それは更に良いものが撮れる可能性が広がるからです。
彼女が能力を身につけた最大の理由、それは「早く終わって帰りたいからです。」
どうですか?原始的でしょ。。
もう一つ、有名な女優さんとの撮影でした。彼女がカメラに向かって20秒のセリフを話すカットです。セリフのカンペは出てますが視線が気になるといけないので、彼女は懸命に暗記しています。
ふと見ると、握った左手から汗がポタポタと垂れています。緊張からでしょうか。私はそれを和らげようとハンドタオルを渡して「明るいのにライトの中は意外と孤独ですよね」と言いました。
彼女はクスッと笑って「それなら、横でセリフの相づちしてくれる?」私は「了解です」と言い、カメラに映らない場所に立ちました。私の得意技は「最高の相づち」です。
ライトの林の中はとても孤独です。監督やカメラマン、ヘアメイクも一時的には中に入りますが、すぐに出ていきます。孤独に耐えながらセリフを上手に話すのは結構難しいことなんです。「もう出来ません!」って泣き崩れる女性もいました。
彼女は監督の「もう少しマキで!」という難しい要求に応じながら8つのテイクを撮影してOKとなりました。
彼女は「今度いつ会えるか分からないからこのタオルもらっちゃうネ」と言いました。私は「どうぞ、どうぞ」「お疲れさまでした」と見送りました。たぶん付き人さんもたくさんのタオルを持っていることでしょう。
ウェイティング・ビジネスと言われるくらい待つのが長い仕事です。
短気な人には、つとまりませんね。
それでは、また。。。
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